「サッカーを知っている選手」は何を“知っている”のか
「現役目線」――サッカー選手、岩政大樹が書き下ろす、サッカーの常識への挑戦
では、いったい「サッカーを知っている」選手は何が優れていて、何を知っているのか?
いまなお現役で活躍を続ける岩政大樹が書く、目からウロコのサッカー学。
・唸った川崎Fの中村憲剛選手のプレー
「○○はサッカーをよく知っている」
この世界でよく使われる言葉です。僕が10年間プレーした鹿島アントラーズは、これまでたくさんのタイトルを取ってきたことから、「チームとしてサッカーを知っている」とか、「勝ち方を知っている」とか言われます。
では、それはいったいどういうことなのでしょうか。
先日、J1第7節のハイライトをテレビで見ていると、こんなシーンがありました。
FC東京対川崎フロンターレ。
この試合、2-4で川崎フロンターレが勝利するのですが、89分に川崎がダメ押しの4点目を奪ったシーンで、僕は中村憲剛選手のアシストをする前のプレーに、「さすが」と思わず唸りました。
2-3と、川崎のリードでロスタイムを迎えたその場面、中村選手はハーフウェーライン付近でボールを受けました。そして右前方に大きなスペースがあるのを見て、中村選手はコーナーフラッグ付近を目指してドリブルを開始しました。
時間帯を考えても、ここはボールキープをする、というのがひとつの定石でしょう。しかし、中村選手は違ったのです。キープに入るかと誰もが思った瞬間、FC東京の選手がゴール前の準備を怠っていることを察知した中村選手は一気にスピードを上げ、突然ゴールを目指し始めました。そして、フリーになっている選手に見事にアシストを決め、その試合を事実上終わらせました。中村選手の真骨頂ともいうべき、まさに“サッカーを知っている”プレーだったと思います。
このプレーがなぜサッカーを“知っている”ことになるのかは後述することにして、ここで僕の話を少しさせてください。
僕が2013年シーズンをもって、(「サッカーを知っている」と言われるクラブである)鹿島を離れて別のクラブでプレーしようと思った一つの要因に、“鹿島にあるもの”を自分なりに解明したかったということがありました。